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ファゼーロは何だか少しあいまいに返事しました。 「きみの旦那はなかなか恐い人だねえ、何て云うんだ。」 「テーモだよ。」 「テーモ、やっぱし何だか聞いたような名だなあ。」 「聞いたかも知れない。あちこち役所へ果物だの野菜だの納めているんだから。」 「そうかねえ。とにかく地図はこれだよ。」
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わたくしは戸口に買って置いた地図をひろげました。 「ミーロも呼んでもいいかい。」 「誰か来てるのか、いいとも。」 「ミーロ、おいで、地図を見よう。」
「ないなあ、いつごろからあるんだい。」 「去年からだよ。」 「それじゃないんだ。この地図はもっと前に測量したんだから。その工場はどんなとこにあるの。」 「ムラードの森のはずれだよ。」 「ああ、これかしら、何の木だい、楢ならか樺かばだらう。唐檜やサイプレスではないね。」 「楢と樺だよ。ああこれか。ぼくはねえ、どうも昨夜の音はここから聞えたと思うんだ。」 「行こう行こう、行って見よう。」ファゼーロはもう地図をもってはねあがりました。 「わたしも行っていいかい。」 「いいとも、ぼくそう云いたくていたんだ。」 「じゃわたしも行こう。ちょっと待って。」 わたくしは大急ぎで仕度をしました。どうせ月は出るけれども地図が見えないといけないと思って、ガラス函のちょうちんも持ちました。